L Security Logo
L.SECURITY
教育・コンプライアンス

警備員 基本教育|警備業法第21条準拠・11章131項目で学ぶ

警備業法第21条に基づく新任20時間/現任10時間の基本教育を11章131項目に整理。基本原則・資質・警備業法・憲法・刑法・刑事訴訟法・遺失物法・銃刀法・連絡方法・現場保存・救急蘇生法を、現場で使える形で体系化しました。

警備員 基本教育|警備業法第21条準拠・11章131項目で学ぶ

警備業は、人の生命・身体・財産を守るサービス業であり、その本質は「安全と安心の提供」に集約されます。警備員一人ひとりの知識と判断が、依頼者の暮らしと社会の治安を支える業務です。

本ページは、警備業法第21条に定める基本教育を、11章131項目にわたって体系化したテキストです。**新任警備員(20時間以上)/現任警備員(年度10時間以上)**の教育内容を、現場ですぐ役立つ形で整理しました。

11
章構成
131項目
学習項目
20h+
新任教育(最低時間)
10h+
現任教育(年度最低)
Free Download

警備員 基本教育テキスト(PDF版)

本記事の全11章を1ファイルにまとめたPDFです。新任研修・現任研修の配布資料としてご活用ください。

PDFをダウンロード(2.3MB)

第1章|警備業務実施の基本原則

1-1. 警備業の歴史と法制定の経緯

警備業法は昭和46年に制定されました。当時、業者数は約750社・警備員約4万1,000人と急成長していた一方で、警備員による非行・不法・不当事案が頻発し、労働争議への介入が社会問題化していたことが背景にあります。

立法趣旨は「警備業について必要な規制を定め、警備業の実施の適正を図ること」。改正の主要な経緯は以下の通りです。

主な改正内容
昭和46年制定。前科を欠格事由化、営業届出制、教育・指導監督義務化
昭和57年営業の認定制を導入、警備員指導教育責任者制度導入、機械警備の規制新設
平成14年暴力団員等に係る欠格事由追加、変更手続簡素化
平成16年知識・能力の向上、検定制度普及、依頼者保護、書面交付、苦情解決
令和元年成年被後見人・被補佐人の削除、教育時間の短縮

平成30年12月末時点の参考データでは、**警備業者数 9,714業者/警備員数 約55万4,500人(うち女性 約3万4,000人)**となっています。

1-2. 警備業の社会的役割

警備業はサービス業であり、提供するサービスは「安全」と「安心」という無形の価値です。社会的需要は増大している一方、人手不足・低賃金・社会保険未加入問題などの課題も抱えています。

近年は災害派遣等、警察活動の補充部隊としての役割期待が大きく、社会貢献性の高い業務として位置づけられています。

1-3. 警備業の区分(4つの号)

警備業法第2条第1項により、警備業務は以下の4区分に分類されます(他人の需要に応じて行うものが対象)。

1号

1号警備(施設警備)

事務所、住宅、興行所、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し防止する業務

2号

2号警備(交通誘導・雑踏警備)

人若しくは車両の雑踏する場所、又は通行に危険のある場所における負傷者等の事故防止業務

3号

3号警備(貴重品運搬警備)

運搬中の現金・貴金属・美術品等に係る盗難等の事故防止業務

4号

4号警備(身辺警備)

人の身体に対する危害発生をその身辺において警戒・防止する業務

1-4. 基本原則(警備業法第15条)

この規定が置かれた理由は次の3点です。

  1. 警察業務に類似する一面がある(制服着用、護身用具を携帯)
  2. 業務の性質から行き過ぎ・不法・不当な事案発生の可能性
  3. 法制定当時、警備員による労働争議等への関与事件が相次ぎ社会から批判を受けた

1-5. 施設管理権と警備員

施設管理権とは、施設の管理者(所有者・管理権者)が所有する施設を包括管理する権限です。警備員の権限は、この施設管理権の委任に由来します。

  • 対象:住宅・邸宅等の建造物/建築物(ビル・商業施設等)/土地、各種用地
  • 流れ:施設管理権者 → 民事契約により権限の一部または全部を委託 → 受託・受任者(警備会社)が代行

警備員の権限の範囲は次の通りです。

  • 範囲:占有権の及ぶ領域(建物・敷地内)
  • 業務:出入管理、巡回、不審者対応、違法行為者の発見・排除
  • 悪戯・迷惑行為・危険行為等の犯罪に至らない行為は管理権の範囲内で注意・警告。従わない場合は社会通念上妥当な方法で阻止又は排除可能
  • 現行犯逮捕(万引き、恐喝、暴行、傷害等)は管理権に影響されない

1-6. 三大「類似行為」と留意事項

警備員が陥りやすい3つの「警察類似行為」については、明確な線引きを理解しておく必要があります。

行為警察官警備員
職務質問法令根拠あり(警職法第2条)/強制力あり根拠なし/強制力なし(管理権の範囲のみ)
交通整理法令に基づく強制誘導可根拠なし/優先誘導は不可
取調べ刑訴法に基づき実施可不可(簡単な事実確認まで)

警備員も現行犯逮捕(万引き、傷害、暴行等)はできます。盗品の有無確認のため任意に紙袋を開けてもらう程度の行為や、凶器を「一時預かる」行為は社会通念上合理的な範囲で許されますが、取調べ類似行為(長時間の事情聴取・謝罪状の強要など)は禁止です。私人が現行犯人を逮捕した場合は、直ちに警察官に引き渡さなければなりません(刑訴法第214条)。

1-7. 「正当な活動への干渉」具体例

個人・団体の正当な活動に対し、威圧的言動等で不当な影響を及ぼす行為は禁止されています。

現場ではこうなる|商業施設での万引き対応フロー

  1. 01
    15:42 巡回中、不審者を発見

    店内巡回中、ジャケットの下に商品を隠した男性を視認。即座に店員に状況を伝達し、レジを通らずに退店するか確認体制をとる。

  2. 02
    15:45 退店を確認 → 声かけ

    退店した時点で窃盗罪が確定。「店の者ですが少々お話よろしいですか」と声をかける(執拗な追及はNG)。

  3. 03
    15:46 現行犯逮捕

    逃走の素振りがあれば現行犯として身柄を確保。実力行使は社会通念上必要最低限。羽交い絞めや殴打は不可。

  4. 04
    15:47 110番通報

    逮捕した時点で直ちに警察に通報。同時に本社・指導教育責任者にも連絡。

  5. 05
    15:55 警察官到着まで現場保持

    長時間の取調べ・謝罪状の強要は強要罪・監禁罪になる。事実確認の最低限の質問のみ。

  6. 06
    16:05 警察官に引渡し

    到着した警察官に犯人と発見状況を引き継ぐ。詳細な事情聴取は警察官の役割。

第2章|警備員の資質の向上

2-1. 使命と心構え

警備業はサービス業として誕生し、本質は変わりません。提供するサービスは「安全と安心の提供(無形)」に集約されます。

  • 使命:不特定多数(契約先)から依頼を受け、個人・企業の身体・財産を守ることを営業とする。社会的責任は極めて重く、誠意と豊富な知識をもって信頼に応える
  • 心構え:警備員の実力は、不測の事態が発生したときに表面化する。冷静・沈着・適切に事態を収拾させる能力こそが求められる。日常業務において基本的な業務を確実に実施することが何より大切

社会的使命の認識

警備業務の社会的使命を認識する

良識と誠実さ

良識の豊かな誠実な人柄

専門性

専門的知識技能の向上

規律ある行動

清潔で端正な服装、明快で規律のある行動・ことば使い

心身の健康

心身ともに健康である

2-2. 業務推進上の心構え

警備対象に関する知識と、警備対象に内在する危険要因の把握、そして事故の未然防止対策事故発生を想定した事前対策の4視点を持つことが求められます。

  • 施設警備:建物概要、駐車場概要、出入口位置、避難通路位置、対象施設の特徴
  • 交通誘導警備:誘導対象の車両・人、道路と周辺状態、通行頻度、工事概要、資機材機能
  • 危険要因:建物施設の不備や故障、不審者の侵入経路・潜伏場所、不正入退場の方法、火災発生要因、避難経路上の障害物等

2-3. 日常の心構え

健康管理

睡眠不足は不注意・判断ミスを招く。健康診断を定期的に行う。

ギャンブル抑制

賭博・競輪・競馬への過度な関与は業務に支障。堅実な生活態度が信頼獲得につながる。

サラ金・闇金の禁止

個人的な金銭の貸借は少額でも返済をめぐりトラブルの原因に。

秘密の保持

業務に関し知り得た秘密は家族にも漏らさない。退職後も同様

2-4. 信頼感と技術の向上

信頼感は4つの側面から成り立ちます。

  1. 外観からの信頼感:さわやかな笑顔/丁寧な言葉づかい/正しい姿勢と節度ある動作/礼儀と礼節/清潔な服装
  2. 内面からの信頼感:警備員としての誇りと自覚/旺盛な責任感/働く意欲/一般常識/創意工夫/自分の誤りに気付いたら素直に改善
  3. 行動からの信頼感:警備技術への習熟/警備対象物件の熟知/冷静沈着・適切妥当な判断/清廉潔白/規則遵守・時間厳守/秘密厳守/プロ意識
  4. 資格の取得:1級・2級の検定制度を活用し自己研鑽

2-5. 制服の意義(警備業法第16条)

制服は所属警備会社や警備業界全体のイメージを左右し、清潔感や信頼感を与える「安全と信頼のシンボル」です。背後の組織力・団体を代表し、業界全体の社会的評価を高める役割を担います。

2-6. 労働安全管理|ハインリッヒの法則

警備業務は危険性を内在し、ヒューマンエラー(懸命・確信・焦燥・放心・多忙・無知)と環境状況に左右されます。労働災害の予防にはハインリッヒの法則の理解が不可欠です。

Heinrich's Law

ハインリッヒの法則 1 : 29 : 300

重大事故
1件
軽微な事故
29件
ヒヤリ・ハット
300件
1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故と、300件のヒヤリ・ハットが存在する。
小さな兆候への気づきが、重大事故を未然に防ぐ。

労災事故の代表例として、炎天下の熱射病、交通誘導時の車両動静の不注視、転落事故、凍結路面転倒事故、追跡時の受傷事故などがあります。

受傷事故の防止ポイント

  • 障害物の確認:障害物がある場合は避けて巡回
  • 体力の確認:年齢とともに体力・反射神経が衰える。過信せず常に安全を優先
  • 周囲の状況把握:正確な状況把握に努める
  • 不審者からの攻撃に注意:人数・凶器の有無を素早く観察し、昼間3歩、夜間6歩以上の間合い、相手の動向から目を離さない

現場ではこうなる|夏場の交通誘導現場で熱中症発症

  1. 01
    10:30 朝礼で水分補給を確認

    気温32℃予報。水分・塩飴を全員に配布。30分ごとの水分補給を指示。

  2. 02
    13:15 同僚の異変に気づく

    誘導中の同僚が顔面蒼白、汗が止まっている状態。昼休み後の水分補給を怠ったとの本人談。

  3. 03
    13:16 即座に作業中止・日陰へ

    無線で現場監督に通報、警備配置を一時変更。日陰のある事務所車両に移動。

  4. 04
    13:18 119番要請判断

    意識はあるが受け答えが遅い → 重症度Ⅱの可能性 → ためらわず救急要請。

  5. 05
    13:35 救急隊到着・搬送

    搬送先は近隣の総合病院。本社・指導教育責任者に労災発生の第一報。

第3章|警備業法

3-1. 警備業法の構成

条文主な内容
第1章 総則1〜2条目的・定義
第2章 認定等3〜13条警備業の要件・認定・営業所届出
第3章 警備業務14〜20条警備員の制限・基本・服装・護身用具・書面交付・苦情解決
第4章 教育等21〜39条責務・指導教育責任者・検定・欠格条項
第5章 機械警備業40〜44条機械警備に関する規制
第6章 監督45〜51条名簿・立入検査・指示・営業停止
第7章 雑則52〜55条
第8章 罰則56〜60条

3-2. 法の目的(第1条)

「警備業務の実施の適正を図る」とは、①警備業務の実施に伴う違法又は不当な事態の発生を防止、②警備業務の適切な実施を促進、の2点を意味します。

3-3. 用語の定義(第2条)

  • 警備業務:第1〜4号に該当する業務で、他人の需要に応じて行うもの。自己のために自己の業務として行うものは含まない
  • 警備業:警備業務を行う営業(反復継続して行い、財産上の利益を得る・得る目的で行う)
  • 警備業者:第4条の認定を受けて警備業を営む者
  • 警備員:警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事する者。事務職員は含まない。機械警備の指令員は警備員に該当

3-4. 警備業の要件・欠格事由(第3条)

3-5. 認定制度

公安委員会が警備業者の要件適合性を審査し認定する制度です。

  • 主たる営業所の所在地を管轄する公安委員会に申請
  • 認定証の有効期間は5年(継続には更新が必要)
  • 認定証の亡失・滅失時は再交付を受ける
  • 認定証は主たる営業所の見やすい場所に掲示

認定の取消事由(第8条):要件を満たしていない/正当理由なく認定後6カ月以内に営業を開始せず、又は6カ月以上営業を休止/3カ月以上所在不明。

3-6. 警備員の制限(第14条)

  • 18歳未満の者は警備員になれない(労基法でも18歳未満の深夜業を禁止)
  • 第3条第1号〜第7号該当者は警備員になれない

警備業者は採用時に誓約書・履歴書・診断書・住民票・身分証明書等で確認し、警備員名簿を営業所ごとに備え付ける義務があります。

3-7. 警備員の服装(第16条)

色彩・型式が警察官等の制服と明らかに異なるものでなければならず、60平方センチメートル以上の標章を上衣の胸部及び上腕部に各1個付けます。届出は業務開始日の前日までに、業務を行う場所を管轄する警察署長を経由して公安委員会へ。

3-8. 護身用具(第17条)

護身用具規格
警戒棒円棒、長さ30cmを超え90cm以下、区分ごとの重量以下
警戒じょう円棒、長さ90cmを超え130cm以下、区分ごとの重量以下
刺股(さすまた)
非金属性の楯

警戒棒の重量制限

長さ(cm)重量(g)
30〜40以下160以下
40〜50以下220以下
50〜60以下280以下
60〜70以下340以下
70〜80以下400以下
80〜90以下460以下

警戒じょうの重量制限

長さ(cm)重量(g)
90〜100以下510以下
100〜110以下570以下
110〜120以下630以下
120〜130以下690以下

3-9. その他の重要規定(第18〜20条)

  • 第18条 特定の種別の警備業務:1号・2号・3号警備業務のうち専門的知識・能力が必要な場合は、合格証明書を受けている警備員に実施させる
  • 第19条 書面の交付:契約締結前後の書面交付により、依頼者の理解と紛議防止
  • 第20条 苦情の解決:警備業者自らが信頼感・安心感の醸成に努め、苦情に適切に対処

3-10. 警備員の教育(第21条)

教育の種類

区分対象時間
新任教育新たに警備業務に従事させる警備員従事前に20時間以上
現任教育現に従事している警備員毎年度(4/1〜翌3/31)10時間以上

教育内容は 基本教育(共通の基本的知識・技能)と 業務別教育(警備業務の区分に応じた専門的知識・技能)、必要に応じて行う向上のための教育です。

教育時間の減免規定

  1. 最近3年間に1年以上の警備員経験がある者
  2. 警察官であった期間が1年以上の者
  3. 有資格者(警備員指導教育責任者・検定合格証明書取得者)

3-11. 警備員指導教育責任者制度(第22条)

警備員に対する指導教育の不徹底や形式化の防止を目的とする制度です。

  • 営業所ごと及び取り扱う警備業務ごとに資格者証の交付を受けている者から選任
  • 公安委員会が定期的に行う講習の受講が義務
  • 選任した者が欠けたときは14日以内に別の者を選任

3-12. 警備員の検定制度(第23条)

検定実施警備業務は 6種別:①空港保安警備、②施設警備、③雑踏警備、④交通誘導警備、⑤核燃料物質等危険物運搬警備、⑥貴重品運搬警備。級は 1級(統括管理者)と 2級(自らの判断で適正な警備業務を実施する能力)です。配置基準該当の警備業務を行うときは、合格証明書を携帯し関係者の請求があれば提示します。

現場ではこうなる|新人警備員配属時の手続きフロー

  1. 01
    採用面接|欠格事由の確認

    誓約書・履歴書・診断書・住民票・身分証明書・登記事項証明書を提出。第3条第1号〜第7号該当者の有無を確認。

  2. 02
    入社初日|警備員名簿に登録

    営業所ごとに備え付けの名簿に記載。指導教育責任者が管理。

  3. 03
    入社1〜5日目|新任教育20時間以上

    基本教育+業務別教育を実施。本テキスト(基本編)はこの時間に該当。実施記録を作成。

  4. 04
    配属前日|制服・装備品の支給

    標章付き制服、警戒棒(規定サイズ・重量内)、笛、無線機等を支給。配属先が新規の場合は前日までに公安委員会への服装届出。

  5. 05
    毎年4月〜|現任教育10時間以上

    年度(4/1〜翌3/31)ごとに基本教育+業務別教育を継続実施。

  6. 06
    2年目以降|検定取得を推奨

    2級検定(自らの判断で適正な業務を実施できる能力)取得を会社支援。配置基準該当業務での合格証携帯義務に対応。

第4章|憲法

4-1. 日本国憲法の制定と意義

  • 昭和21年(1946年)11月3日公布、翌年5月3日施行
  • 三原則:国民主権・基本的人権の尊重・平和主義
  • 日本国の形、国と個人の関わりを規定する最高法規

4-2. 憲法と警備業務

警備業は安全・安心を担うサービス産業ですが、業務の性格上、国民の権利、特に基本的人権の侵害など行き過ぎや不当な行為を伴いやすい側面があります。警備業法第15条は、憲法で保障する基本的人権の尊重、自由権として保障している勤労者の団結権等への不干渉を規定しています。

4-3. 基本的人権の意義

基本的人権の性格は 固有普遍性と永久不可侵性。第12条は、自由・権利を不断の努力によって保持する義務、濫用しない義務、公共の福祉のために利用する責任を定めています。第13条「個人の尊重と公共の福祉」により、基本的人権は絶対無制限ではなく「公共の福祉に反しない限り」という客観的限界があります。

4-4. 基本的人権の内容

警備員が業務上特に関係する条文を中心に整理します。

  • 平等権(第14条):人種・信条・性別・社会的身分・門地による差別の禁止
  • 表現の自由(第21条):集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由。検閲の禁止。通信の秘密
  • 法定手続きの保障(第31条):罪刑法定主義の明確化
  • 逮捕の保障(第33条):現行犯逮捕を除き、令状によらなければ逮捕されない(令状主義
  • 抑留・拘禁の保障(第34条):理由を直ちに告げられず、弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留・拘禁されない
  • 住居の不可侵(第35条):住居・書類・所持品について、令状なく捜索・押収を受けない権利
  • 生存権(第25条)/勤労権(第27条)/勤労者の団結権(第28条)

4-5. 警備員の現行犯逮捕と憲法

現場ではこうなる|デモ警備での「権利侵害」境界線

  1. 01
    事前|主催者から雑踏警備の依頼

    労働組合の合法的なデモ行進の警備。憲法第21条「集会・結社の自由」、第28条「勤労者の団結権」が保障する正当な活動。

  2. 02
    行進中|沿道で対立団体が罵声

    主催者から「黙らせろ」と要請されるが、警備員に強制力はない。憲法第21条で表現の自由は保障されており、罵声自体は犯罪に至らない場合が多い。

  3. 03
    対応|「分離」のみ実施

    行進ルートを少し迂回させる、対立側との物理的距離を確保する等、双方の権利を尊重しつつ衝突を防ぐ。

  4. 04
    違反発生時|暴行・傷害は現行犯逮捕

    対立側が物を投げる、殴りかかる等の犯罪行為(暴行罪・傷害罪)が発生した時点で初めて現行犯逮捕。直ちに警察へ引渡し。

第5章|刑法

5-1. 刑法の意義と罪刑法定主義

刑法(明治40年制定、平成19年改正)は刑罰法規の中心。第1編 総則/第2編 罪 から構成され、刑の種別は死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の6種です。

派生原理として、慣習刑法の排斥刑罰法規の不遡及類推解釈の禁止絶対的不定期刑の禁止があります。

5-2. 犯罪の成立要件

犯罪とは、刑罰法令の構成要件に該当する有責・違法な、人の行為です。

  1. 構成要件該当性:刑罰法令に規定する犯罪となる要件
  2. 違法性:通常は構成要件該当行為は違法。違法性阻却事由がある場合は違法でなくなる
  3. 有責性:故意または過失があり、責任能力がある(行為の是非善悪を弁別できる)

未遂犯:障害未遂(刑の減軽することができる)/中止未遂(刑を減軽又は免除する)。共犯:共同正犯/教唆犯/従犯(幇助)。

5-3. 違法性阻却事由|正当防衛と緊急避難

正当防衛の3要件

  1. 急迫不正の侵害があること:今、目前に迫っている侵害。将来や既に終わった侵害は不可
  2. 自己又は他人の権利を防衛するもの:挑発して攻撃させ、それを口実に攻撃する行為は不可
  3. やむを得ない行為であること:程度を超えないこと

業務上特別の義務ある者(警察官・消防官・船長等)には適用されません。

その他の違法性阻却事由(第35条)として、法令行為(警察官の現行犯逮捕等)/正当業務行為(医師の手術、身辺警備員が背広下に護身用具を携帯する行為等)/自救行為被害者の承諾自損行為があります。

5-4. 生命・身体を害する罪

罪名法定刑主なポイント
殺人(199条)死刑又は無期若しくは5年以上の懲役未必の故意も含む。胎児はまだ「人」ではない
傷害(204条)15年以下の懲役又は50万円以下の罰金中毒症状や失神状態に陥らしめることも傷害
傷害致死(205条)暴行・傷害の結果被害者が死亡
暴行(208条)2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料殴打、肩を押す、手を掴んで引っ張る等
凶器準備集合(208条の3)2年以下の懲役又は30万円以下の罰金性質上の凶器(銃砲刀剣類等)/用法上の凶器(鎌・棍棒等)

5-5. 自由・平穏・秘密を害する罪

罪名法定刑警備員の留意点
逮捕及び監禁(220条)3月以上7年以下の懲役現行犯人を逮捕後、長時間拘束した場合は監禁罪に該当
脅迫(222条)2年以下の懲役又は30万円以下の罰金害を加える旨を告知して脅迫
強要(223条)3年以下の懲役謝罪状を書かせる行為は強要罪に該当しうる
威力業務妨害(234条)3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
住居侵入(130条)3年以下の懲役又は10万円以下の罰金退去要求を受けて退去しない場合は不退去罪
信書開封(133条)1年以下の懲役又は20万円以下の罰金葉書は対象外

5-6. 財産を害する罪

罪名法定刑
窃盗(235条)10年以下の懲役又は50万円以下の罰金(未遂罰)
強盗(236条)5年以上の有期懲役
恐喝(249条)10年以下の懲役
横領(252条)5年以下の懲役
業務上横領(253条)10年以下の懲役(信頼関係を裏切る性格が強いため加重
遺失物等横領(254条)1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料
器物損壊(261条)3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料(親告罪

現場ではこうなる|巡回中に襲撃された警備員の正当防衛

  1. 01
    深夜2:30|不審者を発見

    巡回中、敷地内に侵入者2名を確認。声をかけたところ、1名がナイフで切りかかってきた。

  2. 02
    急迫不正|正当防衛の要件成立

    ① 急迫不正の侵害(ナイフ襲撃) ② 自己の身体を防衛 ③ やむを得ない行為 → 警戒棒で相手の腕を制止することは正当防衛の範囲内。

  3. 03
    過剰防衛|逃げる相手を追撃するとNG

    侵害が終わった(相手が逃走した)後の追撃・殴打は過剰防衛。違法となり、情状により減軽・免除されるが処罰の対象。

  4. 04
    誤想防衛|勘違いによる暴行もNG

    暗闇で「ナイフを持っている」と思い込んで襲ったが、実際は携帯電話だった場合は誤想防衛。故意がないため過失犯(過失傷害罪等)として処罰の対象。

  5. 05
    処理|110番通報・記録作成

    侵入者を確保したまま警察に通報。逮捕の状況、防衛行為の詳細、目撃者を記録。会社には傷害発生の報告。

第6章|刑事訴訟法

6-1. 刑事訴訟法の意義

警備業務は人の生命・身体・財産の安全を守るため、犯罪に接する機会が一般人より多く、現行犯逮捕の機会も多い反面、人権侵害も起こりやすく、逮捕後の措置等で不法・不当事案を起こしやすい側面があります。

6-2. 逮捕の3種類と警備員の権限

種類根拠権限主体警備員
通常逮捕(199条)事前に逮捕状検察官・司法警察職員のみ✗ 不可
緊急逮捕(210条)3年以上の罪・急速要・事後令状検察官・司法警察職員のみ✗ 不可
現行犯逮捕(213条)令状不要・何人でも可能何人でも✓ 可能

6-3. 現行犯人と準現行犯人

現行犯人(212条1項):現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者。判例上、多少の時間(20〜30分程度)、多少の場所(現場から200〜300m程度)の隔たりがあっても、犯罪行為の痕跡が明瞭なら現行犯逮捕可。未遂罪(処罰規定あり)も対象

準現行犯人(212条2項):罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき、次のいずれかに該当する者。

準現行犯

① 犯人として追呼されているとき

単に追われて逃げているだけではなく、犯人として追跡されていると認められる事情が必要。

準現行犯

② 贓物・凶器その他の物を所持

贓物(窃盗・強盗・恐喝等の被害品)、血だらけの短刀、贓物隠匿用バッグ等。

準現行犯

③ 身体・被服に犯罪の顕著な証跡

身体・衣類等に生々しい血痕等。

準現行犯

④ 誰何されて逃走しようとするとき

突然逃げ出した場合等。

6-4. 軽微犯罪と現行犯逮捕(217条)

軽微犯罪=30万円以下の罰金、拘留、又は科料に当たる罪(刑法・暴力行為等処罰法・経済関係罰則の整備に関する法律以外は当分の間2万円以下)。

6-5. 逮捕及び実力行使の限界

逮捕時の留意点:

  • 常に犯人の反撃を予想し、状況により警戒棒等を活用し受傷事故防止に万全を期す
  • 一人で犯人に立ち向かうことなく、他の警備員や通行人に協力を求める
  • 共犯者の妨害・反撃にも留意
  • 実力行使は社会通念上容認される必要最低限度の範囲

6-6. 凶器及び盗品等の措置

例外的に認められる行為:

  • 犯人が振り上げた凶器を一時取り上げ、自己又は第三者の安全を確保する行為
  • 犯人の自殺防止のための一時預かり

凶器・盗品等は警察官臨場まで見張り、臨場した警察官に差し出します。

6-7. 逮捕のための住居等への立入

私人である警備員は他人の住居への立ち入りは許されません(住居権利者の承諾がある場合を除く)。犯人が家屋等に逃げ込んだ場合は、警察に通報し警察官臨場まで見張るのが原則です。

6-8. 逮捕後の措置

正当な理由がないのに引き渡しを遅延させた場合は、監禁罪になる可能性があります。引渡しの方法は、110番通報して警察官の臨場を求め現場で引渡す、又は警備員が警察署・交番等へ連れて行き引き渡す、のいずれかです。

現場ではこうなる|準現行犯人を発見「追呼」の判断

  1. 01
    19:23 異変通報

    商業施設の警備本部に「2階で女性のバッグがひったくられた」の連絡。

  2. 02
    19:24 「泥棒!」と追跡される人物を発見

    1階エスカレーター付近で、被害者と思われる女性が「あの人!」と叫びながら追跡している男性を視認。これは準現行犯人の①「犯人として追呼されているとき」に該当。

  3. 03
    19:24 所持品の確認

    男性が女性物のバッグを所持。これは準現行犯人の②「贓物を所持しているとき」にも該当。

  4. 04
    19:25 現行犯逮捕(準現行犯)

    「お持ちのバッグの件で警察に引き渡します」と告知し身柄確保。実力行使は最低限。

  5. 05
    19:26 110番通報

    逮捕の事実、現場の状況を簡潔に通報。「巧遅より拙速」。

  6. 06
    19:30 警察官到着・引渡し

    事実のみ報告。憶測は語らない。被害者・目撃者の連絡先も警察官に伝達。

第7章|遺失物法

7-1. 遺失物法の意義

遺失物とは通常「落し物」「忘れ物」。占有者の意思によらず、奪取によらず、占有を離脱した動産です。盗まれた物・奪われた物は遺失物に含まれません

立法趣旨:①遺失者に速やかに返還してその権利を保護する、②拾得者に一定の権利を認めて利益を受けさせる。

7-2. 用語の定義

用語定義
物件遺失物・埋蔵物・準遺失物(誤って占有した他人の物、置き去り物、逸走家畜)
拾得物件の占有開始
拾得者物件を拾得した者
遺失者物件の占有をしていた者(回復請求権を有する者を含む)
施設建築物その他の施設(車両・船舶・航空機等の移動施設含む)で、管理に当たる者が常駐するもの
施設占有者施設の占有者(所有権・地上権・賃貸権等に基づき自己のために支配する者)

7-3. 対象物件

  • ① 遺失物:占有者の意思によらず、奪取によらずに占有を離れた動産
  • ② 埋蔵物:土地その他の物の中に包蔵されている物(古銭、貴金属等)。埋蔵文化財は文化財保護法を適用
  • ③ 準遺失物:誤って占有した物件/他人の置き去った物件/逸走の家畜

7-4. 法令上の手続き

① 一般の場所における拾得物

  • 遺失者に返還/物件の回復請求権を有する者に返還/警察署長に提出
  • 拾得の日から7日以内(初日不算入)に返還又は差し出さないと報労金等の権利を失う
  • 報労金額:当該物件の5分〜2割の範囲
  • 公務員が職務上拾得した場合は請求不可

② 特定の場所における拾得物(施設占有者がいる場合)

  • 速やかに施設占有者に差し出す
  • 拾得後24時間以内に施設占有者に差し出さないと報労金等の権利を失う
  • 報労金は、**拾得者と占有者がそれぞれ法定額の2分の1(2.5分〜1割)**を請求

7-5. 権利義務|警備員のポジション

権利等の喪失要因:

  • 拾得物件・交付物件を横領し処罰された者
  • 拾得日から1週間以内に提出しなかった一般拾得者
  • 拾得時から24時間以内に交付しなかった施設内拾得者
  • 交付・自ら拾得した日から1週間以内に返還・提出しなかった施設占有者
  • 所有権取得の日から2ヶ月以内に物件を引き取らない者

7-6. 受取人のいない拾得物の帰属

公告後3ヶ月以内(埋蔵物は6ヶ月以内)に遺失者が判明しない場合は、警察署長保管 → 当該都道府県(北海道)に帰属、または特例施設占有者保管 → 当該特例施設占有者に帰属となります。

所有権を取得できない物(個人情報関連)

  • 個人の身分・地位・一身に専属する権利文書等
  • 個人の秘密に属する事項が記録された文書等
  • 遺失者・関係者の住所・連絡先が記録された文書等
  • 個人情報データベース等が記録された文書等

現場ではこうなる|商業施設で財布を拾得した警備員の対応

  1. 01
    14:20 巡回中に財布を発見

    3階フードコートの椅子の下に黒い財布。中身は現金2万円とクレジットカード、運転免許証。

  2. 02
    14:21 「特定の場所」での拾得と認識

    商業施設は施設占有者がいる「特定の場所」。24時間以内に施設占有者(運営会社)に差し出す必要がある。

  3. 03
    14:25 警備本部に連絡・記録

    無線で本部に拾得報告。場所・時刻・物件の特徴を記録。免許証情報は防犯上、口頭でなく書面で。

  4. 04
    14:30 施設管理事務所に引渡し

    運営会社の遺失物係に引渡し。受領証を受け取る。警備員は使用人・従業員として権利義務を持たない。

  5. 05
    14:45 遺失者からの問い合わせ

    遺失者が施設の遺失物カウンターに到着。免許証で本人確認の上、施設占有者が返還。

  6. 06
    後日 3ヶ月以内に返還がなければ

    都道府県(北海道)に帰属、又は特例施設占有者に帰属する場合あり。

第8章|銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)

8-1. 銃刀法の趣旨と目的

銃砲・刀剣類を使用した犯罪の増加傾向にあり、警備業務中にこの種犯罪・事件等に遭遇することが予想されます。警備員自身の銃刀法違反の発生も予想され、知識と理解を深めることが必要です。

法令の主な規制内容:

  1. 銃砲・刀剣類の所持の禁止
  2. 拳銃部品・実包等の所持・輸入の禁止
  3. 銃砲・刀剣類の所持許可、手続き、保管管理
  4. 古式・美術銃砲・剣類の登録
  5. 刃物の携帯禁止
  6. 模造拳銃所持・模造刀剣類携帯禁止

8-2. 定義

「銃砲」とは

金属製弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲・空気銃。拳銃、小銃、機関銃、砲、猟銃、空気銃(圧縮ガス含む)、その他の装薬銃砲(救命索発射銃、信号銃、建設鋲打銃、麻酔銃、捕鯨銃、と殺銃、もり銃)。

「刀剣類」とは

種別規格
刃渡り15cm以上の片刃の刃物(通常つばを装着)
刃渡り15cm以上の左右均等の諸刃の刃物
やり・なぎなた刃渡り15cm以上
あいくちつばのない柄で刃渡り6〜15cm未満の片刃の刃物
飛出ナイフ45度以上に自動的に開刃する装置を有する/バネの弾力等で開刃

8-3. 主な規制内容

所持の禁止(第3条)

何人も、次の場合を除いては銃砲・刀剣類を所持してはならない。

  • 法令に基づき職務のため所持(警察官、皇宮警察官、自衛隊、自治体職員等)
  • 所持許可を受けて所持(狩猟従事者、射撃選手、捕鯨等)

所持」とは:物の保管について、実力支配する意思を持って事実上自己が支配している状態。所有権その他処分権の有無を問わず、支配関係が存在すれば数分でも成立。遠方の実家や愛人宅に隠匿する行為も所持に当たります。

模造拳銃所持の禁止(第22条の2)

金属製の模造拳銃(モデルガン)は本物と誤認させ強盗等に利用されるため、銃口を閉塞し、銃全体が黄色(金色メッキ含む)又は白色である物以外は所持禁止

刃物の携帯の禁止(第22条)

ただし、刃体8cm以下の「はさみ」「折りたたみ式のナイフ」等で政令で定める種類・形状のものは除外されます。

8-4. 法の解釈

  • 「業務」:人が職業その他社会生活上の地位に基づいて、継続して行う事務又は事業(反復・継続性がある)
  • 「正当な理由による場合」:社会通念上正当な理由が存する場合
該当例非該当
特定の用途のため販売物をその用途に使用する/購入して自宅に持ち帰る犯罪に使用/その目的で携帯/無目的で持ち歩く・うろつく/護身用で携帯/生活必需品でも目的・露出等の携帯状態・使用時期が不明確

携帯」:所持の一態様だが所持の概念より狭い。通常の保管場所以外で、いつでも使用できる状態で身辺に置く状態。屋内・屋外を問わず、手に持つ・身体に帯びる・鞄や風呂敷に入れる場合も含みます。

現場ではこうなる|不審者の所持品から刃物を発見した警備員の対応

  1. 01
    22:15 夜間巡回中、酩酊した男性を発見

    立入禁止エリアに侵入。声をかけると「家に帰る途中だ」と言うが、リュックから刃渡り18cmの包丁の柄が見える。

  2. 02
    22:16 「業務」「正当な理由」の判断

    飲食店勤務でもなく、購入直後でもない。深夜・酩酊状態・刃物所持 →「正当な理由なき携帯」の可能性が極めて高い。

  3. 03
    22:17 距離をとり通報判断

    夜間6歩以上の間合い、相手から目を離さない。警備員自ら所持品を取り上げる行為は不可(差押え禁止)。

  4. 04
    22:18 110番通報

    「刃物所持の不審者がいる」と通報。場所・人相・服装・現在の状況を5W1Hで簡潔に。

  5. 05
    22:19 同僚に応援要請・退路の遮断

    無理に立ち向かわず、相手を刺激しない距離で見守る。逃走時は犯人の特徴を記録(服装・身体特徴・逃走方向・車両ナンバー)。

  6. 06
    22:25 警察官到着

    警察官に状況を引継ぎ。銃刀法違反(刃物携帯禁止)の現行犯として警察が処理。

第9章|警察機関等への連絡方法

9-1. 連絡の意義

警備業務は市民が自らの生命・身体・財産を守る権利があることを根拠として、市民との委託契約に基づきこれを代行するものです。委託者である市民に関する事件事故が発生した場合は、強制的権限のある警察等に処理を委ねることが必須となります。

9-2. 事故発生前の連絡

業務開始前に警察等と緊密な打ち合わせ・連絡を行う必要がある業務:

  1. 原子力関係施設等社会の安全に重大な影響のある対象施設の警備
  2. 大規模な催し物等に伴う雑踏警備業務
  3. 多額の現金等の運搬に伴う貴重品運搬警備業務
  4. 社会的に重要な人物に対する身辺警備業務
  5. その他事件・事故等が発生した場合に社会公共の安全に重大な影響を及ぼすと考えられる警備業務

9-3. 事故発生時の連絡

通報先用途
110番事件・事故
119番救急・火災
118番海上における事件・事故
種別行為の態様
器物損壊街路灯・植物の植え込み・自動車への損壊等
粗暴行為酒に酔って粗野・乱暴な言動で他人に迷惑
不法侵入立入禁止場所、他人の家屋・庭等に無断で入る
業務妨害正当な理由なしに他人の業務を妨害
暴行傷害相手を殴る・蹴る等の暴行
窃盗他人の財物を盗む

9-4. 連絡上の留意事項|六何の原則

Whenいつ

発生・認知した日時(〜時〜分頃)

Whereどこで

場所(所在地、目標物、何階・何号室)

Who誰が

誰が(被害者・加害者・自分の身分)

What何を

何を(事件・事故の内容、被害状況)

Whyなぜ

なぜ(判明している原因。不明なら不明と伝える)

Howどのように

どのように(手段・経過、現場の状況)

9-5. 消防機関への連絡要領

ア. 火災

  • 場所(所在地、名称)、付近の目標となる建物等
  • 建物(一戸建て住宅、マンションの何階、会社事務所)
  • 火災の状況等

イ. 救急車要請

  • 負傷の原因と発病の経過等
  • 場所(所在地、名称)、付近の目標となる建物等
  • 傷病人の数
  • 現在の容態等

9-6. 非常電話による連絡

高速道路では非常電話は1キロメートル間隔トンネル内では200メートル間隔に設置。送受話器を取ると自動的に交通管制につながり、「故障」か「事故」等を通報します。

現場ではこうなる|交通誘導現場で発生した接触事故

  1. 01
    10:45 事故発生

    道路工事の交通誘導中、誘導の合間にトラックと乗用車が接触。乗用車運転手が頭部を打撲。

  2. 02
    10:45 「拙速」を心がけ即110番&119番

    「巧遅より拙速」。完璧な通報文を考える前に通報する。

  3. 03
    10:46 5W1Hで簡潔に伝達

    いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって。情報が不完全でもまず通報、その後で追加。

  4. 04
    10:48 追加連絡

    救急隊到着までの間、負傷者の容態変化や交通状況を追加通報。1回で終わらず複数回。

  5. 05
    10:50 会社・指導教育責任者にも連絡

    事故内容と対応状況を本社にも速報。労災・賠償・契約先対応の準備。

  6. 06
    10:55 救急隊・警察到着

    事実のみを引継ぎ。憶測を語らない。記録(時刻・状況・関係者)を提出。

第10章|現場保存の方法

10-1. 現場保存の意義

犯罪現場を犯行後の状態のまま保存し、証拠や遺留品の散逸・変質・滅失を防止して警察官の採証活動等に協力する活動です。

10-2. 現場保存の範囲

犯罪が行われた地点だけではなく、犯罪の態様に応じて犯人の行動範囲の全ての場所。犯行の場所を中心としてできる限り広い範囲にわたって保存措置をとります。

  1. 犯罪が行われた部屋
  2. 現場に通じる屋内の経路
  3. 侵入、逃走の経路
  4. 屋外、地上の保存資料

10-3. 現場保存要領と留意事項

(1) 現場保存範囲の確保

  1. 犯行の地点・部屋を確保し、現場に通じる通路を確保
  2. 建物構造・敷地形状を勘案しできる限り広い範囲で立入禁止を呼びかけ、必要によりロープ等で立入制限区域を設定
  3. 関係者からの協力の下に行われ、強制力はない

(2) 立入り制限の実施

  • 現場保存範囲内から全ての人を速やかに立ち退かせる
  • 従業員・来訪者は別室又は適当な場所に退去
  • 一旦退去した者が再び立入ろうとした場合は説得して立入をやめさせる
  • 建物の所有者・事業所の責任者等もやむを得ない場合は同行し行動範囲を記録
  • 立入制限前後に現場で行動した人の氏名・時間・行動範囲を記録

(3) 現場の状況・証拠品等に対する留意事項

(4) 発見者・目撃者の確保

  • 有力な参考人として、極力立ち去らないように要請
  • 立ち去る場合は必ず住所・氏名・連絡用の電話番号を記録
  • 現場付近の人達の会話・動静に注意し、情報提供者として協力を得られそうな人の存在を記録

(5) 現場周辺の秩序の回復と維持

  • 立入制限線の設定による業務の渋滞、現場周辺の混雑を緩和
  • 群集心理による野次馬の動向に注意
  • 公道に近い現場では交通渋滞と事故の防止
  • 警察車両等の緊急車両の進入路を確保

10-4. 重傷者と死体の措置

(6) 重傷者の措置

負傷者に意識がある場合:加害者名、負傷の理由、状況等を聞き出す。負傷者の倒れている位置と方向、状態、衣服・着衣の乱れ具合、出血の状態、血痕の飛散状態、付近の凶器の位置と状態を記録。被害者が重傷の場合は救護を最優先

(7) 死体のある現場

  • 真死か仮死で蘇生可能かを見極める
  • 疑わしい場合は直ちに救急隊の出動要請
  • 真死が明らかな場合は現場保存を正確に実践し、できる限り広く確保
  • 死体に対しては礼を失しないよう気を付ける

(8) 不自然な死体の区分

区分内容
犯罪死体死亡の原因が犯罪による場合(殺人、他人の過失による死亡)
変死体犯罪によるかどうか疑問のある不自然な死体。死因の究明により判明
異常死体犯罪によらないことが明らかな死体(過失死、自殺、災害死等)

10-5. 警察官への引継ぎの要領

事実のみに話し、警備員自身の憶測・推察等で報告してはならない

引継ぎ時の主要事項:

  1. 契約先の事業所・施設の名称、業種、所在地、責任者、電話番号
  2. 警備員が発見した場合は氏名と警備会社
  3. 発見の時間と発見の状況
  4. 連絡・通報を行った時間と連絡対象の範囲
  5. 第三者の連絡で事件を知った場合は、発見者の氏名・住所・連絡先
  6. 現場保存の措置を行っている範囲とその方法
  7. 現場保存の開始時間(立入制限を行った時間)
  8. 立入制限線設定前における警備員自身の現場内での措置と行動範囲
  9. 立入制限実施前後に現場に居合わせた者・出入りした者の氏名・住所・連絡先
  10. 現場内で物の位置の移動が行われた場合の理由と移動前の位置・状況
  11. 関連すると思われる情報の提供と提供者の氏名・住所・連絡先

現場ではこうなる|夜間警備中、オフィスで死体を発見

  1. 01
    3:20 異変の認知

    定期巡回で15階オフィスに入ると、机に倒れている男性。声かけに反応なし。

  2. 02
    3:21 真死か仮死かの判断

    遠目に外観のみ確認。近づかない・触れない。意識・呼吸・脈の有無を見極める。蘇生可能性があれば救急要請優先。

  3. 03
    3:22 119番&110番通報

    救急車と警察を同時に要請。「不自然な死体の可能性」と伝達。場所・状況・自分の身分を伝える。

  4. 04
    3:23 現場保存範囲の確保

    15階フロア全体を立入禁止。ロープがなければイス・テープ等で代用。強制力はないため関係者の協力を得る。

  5. 05
    3:24 現場をうろつかない

    自分の経路は最小限に。電話・トイレ・スリッパは使用禁止。タバコ・つばも禁止。エレベーターは1基を救急隊用に確保。

  6. 06
    3:25 記録作成

    発見時刻、現場の状態、自分の行動範囲、通報時刻を時系列でメモ。後の警察への引継ぎ資料となる。

  7. 07
    3:30 救急・警察到着

    事実のみ報告。「自殺だと思います」等の憶測は厳禁。発見状況、通報時刻、立入制限の範囲・時刻を引継ぎ。

  8. 08
    3:45 会社・契約先への報告

    本社・指導教育責任者・契約先責任者に状況を報告。マスコミ対応は会社判断。第三者への情報漏洩は秘密保持義務違反。

第11章|救急蘇生法

11-1. 救急蘇生法の意義

警備業務は、事件や事故から人の生命・身体・財産等を守るもの。一般人に比べ事故等による負傷者に遭遇することが多く、警備員は適切な措置を取ることが社会的に期待されている立場にあります。

11-2. 心肺蘇生法の手順

  1. 01
    (1) 反応を確認

    軽く肩をたたき「大丈夫ですか?」「もしもし、もしもし」と呼びかけ。目を開けない/何らかの返答がない/何らかの仕草がない場合は反応なしと判断。

  2. 02
    (2) 助けを呼ぶ

    「誰か来て!人が倒れています!」「119番に通報してください!」「AEDを持ってきてください!」と具体的に依頼。救助者が一人の場合は自分で119番通報。

  3. 03
    (3) 気道の確保(頭部後屈あご先挙上法)

    片手を額に当て、一方の手の人差し指と中指の2本をあご先に当て、頭部を後ろにのけぞらせ、あご先を挙げる。

  4. 04
    (4) 呼吸の確認

    気道を確保しつつ、自分の頬を傷病者の口・鼻に近づけて胸を見る。10秒以内で「見て・聞いて・感じて」確認。

  5. 05
    (5) 人工呼吸(口対口)

    正常な呼吸がなければ口対口人工呼吸により息を吹き込む。鼻をつまみ、口を覆い、空気漏れがないようにして約1秒×2回。胸が持ち上がるのを確認。

  6. 06
    (6) 胸骨圧迫(心臓マッサージ)

    胸の真ん中を重ねた両手で「強く、速く、絶え間なく」圧迫。深さ4〜5cm/速度1分間に30回/肘を伸ばし真上から。

胸骨圧迫の3ルールとNG動作

4-5cm
深さ(cm 沈むほど強く)
30
速度(1分間あたり)
2
交代の目安(救助者2人)

11-3. AEDの使用手順

心肺蘇生法実施中にAEDが届いたらすぐに使います。

  1. 01
    AEDを傷病者の頭の近くに置く
  2. 02
    電源を入れる
  3. 03
    電極パットを貼る

    右胸の上(鎖骨の下)と左脇腹(脇の下)の2点で心臓を挟むように配置。位置は本体に図示。

  4. 04
    「体に触れないでください」音声 → 自動的に心電図の解析
  5. 05
    「ショックが必要です」「ショックボタンを押してください」のメッセージとボタン点灯
  6. 06
    「皆さん離れてください」と声をかけ、誰も触れていないことを目視確認
  7. 07
    ショックボタンを押す(自分も傷病者から離れる)
  8. 08
    AEDメッセージにより心肺蘇生法を再開

11-4. 出血と止血法

出血の種類

種類出方対処
動脈性出血鮮紅色脈を打つように「ピュッピュッ」と噴き出す速やかな止血処置が必要
静脈性出血暗赤色持続的に「ジワー」と出血出血が多い時は速やかな止血処置
毛細血管出血滲み出るような出血多くは直接圧迫で対処可

直接圧迫止血法(最優先)

最も簡単で確実な止血法。滅菌ガーゼや清潔なハンカチ等を直接傷口に当て、強く圧迫。手にビニール袋を被せて圧迫すれば血液感染の防止になります。静脈性出血、毛細血管出血はほとんどこの方法で対処可能です。

間接圧迫止血法

水道ホースを踏むと水が止まる原理と同じ。傷口を直接圧迫しながら、傷口から心臓に近い動脈を骨に向かって指で押さえることで血液の流れを止めます。

現場ではこうなる|商業施設で倒れた来館者 ─ AED使用までの90秒

  1. 01
    15:00 来館者の異変

    1階エントランスで60代男性が突然胸を押さえて倒れた。即座に駆け寄る。

  2. 02
    15:00:10 反応確認

    肩を軽くたたいて「大丈夫ですか!」と呼びかけ。反応なし。

  3. 03
    15:00:20 大声で応援要請

    「人が倒れています!119番通報お願いします!AEDを持ってきてください!」周囲のスタッフに具体的に依頼。

  4. 04
    15:00:30 気道確保&呼吸確認

    頭部後屈あご先挙上法。10秒以内で「見て・聞いて・感じて」確認。正常な呼吸なし。

  5. 05
    15:00:40 胸骨圧迫開始

    胸の真ん中を1分間に30回、4〜5cm沈むほど強く圧迫。「強く・速く・絶え間なく」。

  6. 06
    15:01:00 AED到着

    同僚がAEDを持参。電源ON、パッドを右胸上+左脇腹に貼付。

  7. 07
    15:01:30 心電図解析・ショック実施

    「ショックが必要です」のメッセージ。「皆さん離れてください!」と声出し確認後ボタン押下。

  8. 08
    15:01:35 胸骨圧迫再開

    AED指示に従い心肺蘇生法を再開。救急隊到着まで継続。

  9. 09
    15:08 救急隊到着・引継ぎ

    発見時刻、実施した処置、AEDショック回数を引継ぎ。記録は警察・搬送先病院での重要資料。

まとめ|「巧遅より拙速」と「事実のみ」を体に刻む

警備員基本教育の11章を通読すると、共通する原則が見えてきます。

法令

① 権限の自覚

警備員は警察官ではない。現行犯逮捕+警察への引渡しが権限の限界。それ以上は犯罪になりうる。

判断

② 巧遅より拙速

緊急時は完璧な情報より速度5W1Hを反射で言えるレベルに。1回で終わらず追加連絡。

記録

③ 事実のみ

警察への引継ぎ・社内報告は事実のみ。憶測・推察は厳禁。時系列で記録する。

現場

④ 触らない・うろつかない

現場保存も拾得物も、まず触らない。施設管理権者・警察・施設占有者の指示を仰ぐ。

安全

⑤ ヒヤリハットを潰す

ハインリッヒの法則。1:29:300の300を放置すれば必ず1がくる。

信頼

⑥ 秘密の保持

業務上知り得た秘密は家族にも漏らさない。退職後も同様。SNS時代こそ徹底する。

合同会社L.SECURITYでは、本テキストを新任教育・現任教育の標準教材として運用しています。警備業法第21条に基づく教育時間の確実な実施と、警備員指導教育責任者による継続的な指導により、現場で迷わず動ける警備員の育成を目指します。

Free Download

警備員 基本教育テキスト(PDF版・全11章131項目)

本記事の全文を1ファイルにまとめたPDFです。新任20時間/現任10時間の教育配布資料、社内研修テキスト、自己学習用としてご活用ください。

PDFをダウンロード(2.3MB)

関連コラム